「新建ハウジング 2014年10月10日号」
東京都東大和市の工房を拠点に活動する宇留賀正輝さん(53歳)は、建築用ステンドグラスを制作する日本でも数少ないステンドグラス職人だ。もの作りの原点を大切にしたいと、施主との打ち合わせ・デザイン・制作・現場施工までを一人で手掛け、日本家屋に溶け込むステンドグラスづくりを追求する。
宇留賀正輝さんは、幼い頃から絵画に興味をもち、大学では美術を専攻、「ものが人の手で出来上がってゆく過程を見るのが大好き」な子供であった。大学時代には沖縄ガラスエ芸店でアルバイトをしながら、オートバイで全国各地のものづくりの現場を訪ねた。
様々な仕事を見るうちに「ガラスの幻想的な美しさ」に魅せられステンドグラス職人を目指すようになった。大学卒業後、個人工房で修行したのち、大手ステンドグラスメーカーで特注ステンドグラスの制作や修復を6年手掛けて独立。現在は施主との打ち合わせ。デザイン・制作・現場施工まで全行程を1人(仕上げは奥様)で手掛け、1物件20万円~100万円程度の作品を、年間12~
20物件に納入する。「教室の先生などステンドグラスに関わる人は多いが、建築に特化し全工程を一人で行うステンドグラス職人は数少ない」と宇留賀さんはいう。
「ステンドグラスと聞くだけで原色で派手、というイメージが一般的で敬遠される事もあった」(宇留賀さん)。
宇留賀さんが目指すのは、日本の建築に馴染むことを根本に、「繊細で丁寧で近くで見ても綺麗」「強くは主張しないがふと気がつくと輝いている」新しい領域だ。
透明と乳白色を基本に、淡い着色ガラスをポイントで使う。構図は施主の想いを受け取りながら、モチーフやストーリーを抽象化させて仕上げる。建築地にも足を運び、「光の状態」「背景」などを確認してデザインに反映する。「喜んでいただいて仕事は完結する。現場条件としてガラスの魅力が発揮出来ないと判断した時には作り手の誠意として制作をお断りすることもあります」とこだわりを貫く。
使用するドイツ職人による手吹きガラスは、ステンドグラス用としては最高級。職人の息づかいでできた凹凸が独特の光の屈折を作り出す。繊細な表現のため制作に手間がかかる細い鉛線をあえて選ぶ。ガラスと鉛線の組教立て作業は熟練の技が試される。コンマ何ミリという微調整を何度も繰り返す。「分業では絶対に採算があわないJという。
こうして人の手の感覚を研ぎすまして完成した作品は、不思議な魅力を帯びる。これまでの採用実績は、個人住宅の玄関ドア・窓・室内建具・問仕切り壁・欄間のほか、店舗・病院・教会・マンションのエントランスなど要所に使い、空間を効果的に演出する。また施主の要望に応じて、照明器具や高級レストランの化粧室のサインなどの受注もある。最近では伝統的な箔押しにも挑戦、付加価値の高い作品づくりに磨きをかけている。
「手吹きガラスで作るステンドグラスは昼室内からみる風景、夜外から見る建物の佇まい、それぞれ味わいがあり、一度足を踏み入れてみたい特別な場所、という期待感を誘う。
「本物を求める仕事がある限り、その要望に応えられる職人を目指したい」(宇留賀さん)。